水弾器 (すいだんき) ・竜吐水 (りゅうどすい)

    萩の民具(12) 市報はぎ(平成3年)1991.4.1号掲載


     4月の声を聞くと、冬の冷たい北西風(あなじ)に代わって暖かい南よりの風が吹き始め、萩は乾燥した風炎(フェーン)の季節となる。火災も発生しやすくなり、かつての大都市萩城下においては、火災と疫病を蔓延させる水害とが大変に恐れられた。
     江戸時代の消火活動は、延焼を防ぐために家屋を倒壊させることが主だった。一般の家に消火器具が整備され始めるのは、かなり時代が下り、明治時代頃からだとされている。写真の水弾器(すいだんき)は、市内の商家で自衛用に備えられていた木製の手押しポンプで、明治27年(1894)に大阪の業者が製作している。
     消火用手押しポンプは、小型のものを含め総称して竜吐水(りゅうどすい)とも呼ばれた。水神の化身である竜が、水を吐き出して火を鎮めることを願っての命名と思われる。宝暦3年(1753)に、オランダ人の指導を受けて長崎で製作されたのが竜吐水の最初とされる。水の到達距離はせいぜい10数メートルであった。