千歯扱き (せんばこき) 

    萩の民具(17) 市報はぎ(平成3年)1991.10.1号掲載


     櫛で毛髪をすくように穀物を歯と歯の間にかけて引くことで穀粒を扱き落とす脱穀用具を、千歯扱きとか千歯という。江戸時代中期に登場し、その高能率故にたちまち全国に普及したといわれる。足踏み脱穀機から動力脱穀機へと変わった現在も、穀粒を痛めないので、種籾用の稲の脱穀には千歯を用いるという農家は少なくない。
     鋼製の歯の何本かの表面には、作者名・製作年号・産地・宣伝文句等が刻まれていることが多い。これによると、博物館収蔵の千歯では、嘉永7年(1854、安政元年)のものが最も古い。嘉永より前の年号が刻まれたものは、全国でもいまだに発見されていないようである。
     産地としては、伯州(鳥取県)倉吉と刻まれたものがある。江戸時代後期から明治時代にかけて、倉吉は全国最大の千歯の産地であった。近くで良質の鋼を産したことと、季節を決めて各地を訪れ修理をして歩くことで販路を拡げたといわれる。