トヘ馬 (とへうま) 

    萩の民具(20) 市報はぎ(平成4年)1992.1.1号掲載


     正月14日夜、または15日の小正月の夜、萩市やその周辺では、トヘトヘとかトイトイと呼ばれる行事が行われていた。子供や青年たちが集団で家々を訪れ、餅や金銭を貰い歩く行事である。その際使用されるのが、この新藁(しんわら)で作られたトヘ馬である。
     訪問者たちは先ず「トヘトヘ、トヘを祝うちょくれ」と大声で呼びかけて、家の縁側などのこのトヘ馬を置く。そして物陰に隠れ、家人がトヘ馬を納めて代わりに餅や金銭を置いてくれるのを待つ。家人が家の奥に入るのを見計らい、素早くそれらを取って来る。その際、しばしば家人に用意の水を掛けられた。訪問を受けた家では、水を浴びせることができればその一年縁起が良いといい、子供や青年たちは、集めた餅を食べれば夏病みしないといった。
     かつて人びとは、名も知れぬ小正月の来訪者を神聖視し、それらの者に祝福を受けたり、供え物の餅などを持ち帰ってもらったりすることに、特別な感情を抱いたようである。