釜 (かま) 

    萩の民具(22) 市報はぎ(平成4年)1992.3.1号掲載


     近年急に使用されなくなった民具に、炊飯や湯沸し用の釜がある。羽釜と呼ばれる羽(鍔ともいう)のついた釜は、江戸時代の後期、都市を中心に使用が始まったとされる。土製の塗竈(ぬりかまど)の出現もこの頃で、両者の普及には深い関係がある。羽釜の羽によって釜と竈は密着し、火や煙を漏らさずに効率よく煮炊きをすることができるようになった。
     羽釜や竈が普及する以前には、自在鉤(じざいかぎ)に鍋をかけて、囲炉裏で煮炊きを行っていた。古くは飯の炊き方も異なっており、大量の水で米を炊き、沸騰後しばらくして湯を取り除く方法がとられた。
     これに対し羽釜を使用する場合には、少量の水を炊き干した後に、釜の中の蒸気で米を蒸すという方法がとられる。蓋が欅(けやき)や樫(かし)材を用いて分厚く重く作られているのは、釜の内に蒸気を密閉して保つためである。下駄の歯のような蓋の把手(とって)は、高い温度や湿度で板が反るのを防ぐのに役立っている。