火 鉢 (ひばち) 

    萩の民具(44) 市報はぎ(平成5年)1993.12.1号掲載


     季節は、燈火親しむ候から炭火親しむ(?)候へと変わってきた。かつては、灰の中に炭火を埋め、手をかざし暖を取る火鉢は、冬の家庭生活に無くてはならない存在であった。しかし現在は、様々な暖房器具の発達により、火鉢や木炭もほとんど用いられなくなっている。
     この火鉢が庶民の間に普及したのは、陶器が進歩し、木炭の供給が豊富になる江戸時代のこととされる。それ以前は、イロリが暖房と調理とに兼用されていた。都市においては、燃料の薪を入手し蓄えることが容易でなかったため、また生活空間が限られていたために、早い時期に火鉢を使用するようになったといわれる。
     火鉢は、屋内のどこにでも移動させることができるため重宝された。しかし、長火鉢などは常に一定の場所に置いておくことが多く、イロリと同じく、家人の座る場所が決まっていたという伝承を聞くことができる。