麦藁舟 (むぎわらぶね) 

    萩の民具(63) 市報はぎ(平成7年)1995.7.1号掲載


     萩地方の農村部では、田植えが終了した6月から7月にかけて、各地で、集落ごとに地神祭りが行われている。この地神祭りは、虫送りとか虫祈祷とも呼ばれる。稲の害虫が発生しないことを願う祭りであるため、この名称がある。
     農薬が普及する以前は、稲の害虫の発生が、その年の収穫量に大きく影響していたとされる。虫の害による飢饉も幾度か起きている。そのため人々は、昔から害虫の防除に大変腐心していた。そこで行われたのが、地神等の神霊への祈願であり、虫を追い払う様々な儀礼である。
     萩地方では、地神僧や神官による祈願の後に、麦藁で作った舟に苗や土団子や御幣などを乗せて、川に流すといった儀礼が見られる。苗には害虫が付着したとみなされ、それを舟に乗せて集落の外に送り出すことで、実際にも虫の害が生じないように願ったものと考えられる。御幣や土団子等の供物を添えて、虫を尊い物として祀りあげていることにも、虫の害を恐れる気持ちが表れている。