火打道具 (ひうちどうぐ) 

    萩の民具(65) 市報はぎ(平成7年)1995.9.1号掲載


     火打道具は、火打石と火打金と火口と付木とからなっている。明治時代にマッチが国産され普及する以前は、この火打道具が、発火用具として一般的に用いられていた。
     火打道具を用いて発火させることを、火を打ち出すという。発火のために、火打石の角と火打金とを打ち合わせて火花を発生させることから、そのように称されるようである。発生させた火花は、火口の上に落として火種とする。火口には、火が着きやすい消し炭類が利用された。そして、杉や桧の剥片の端に硫黄を塗った付木を、火種に付けることで硫黄を発火させ、ようやく炎を得ることができたのである。
     かつて、夜間にイロリや竃の灰の中に火の着いた薪を埋め、翌日の種火とした経験をお持ちの方がいらっしゃることと思う。それは、火を得ることが容易でなかった時代の名残とも考えることができる。しかし、家庭における火の永続ということに、人々は特別の感情も抱いていたようである。