三 徳 (さんとく) 

    萩の民具(71) 市報はぎ(平成8年)1996.3.1号掲載


     3月の声を聞くと、萩地方でもようやく寒さが和らいでくる。海辺の地区では、特産の和布刈り、和布干しが盛期を迎える。この和布、採れ初めの寒い頃の物は新和布と呼ばれ、柔らかくて香が良いと珍重される。しかし、その新和布を得るためには、寒風や寒気の中での刈干し作業が必要となる。
     三徳は防寒具の一種で、かつては漁業に携わるような人たちが盛んに用いていた。片起毛のネル(布、フランネル)を筒状に縫い合わせただけの物だが、機能的で暖かいため重宝された。つまり、筒状の布に頭を通してしまえば、襟巻を首のまわりに巻いたのと同じ状態になり、そのまま布の一端を頭にかければ頬かむりのようになり、また一端を鼻の辺りまで上げればマスクのようになる。三徳というのは、三つの徳が有るという意味で、幾通りかの用途で使用できることに因む名称と説明される。
     北浦地方では、同じ物をヤスオカと呼ぶ地区がある。下関市安岡の漁業者によって広められたからとされる。