簓 (ささら) 

    萩の民具(79) 市報はぎ(平成8年)1996.11.1号掲載


     簓は、鍋釜や飯櫃などを洗ったり、石臼の目に詰まった穀物の粉をこすり落としたりする際に用いられた。細かく割った竹を束ねた物や、節一つを残して切った竹筒の端を細かく割った物などが見られる。大量生産される、いわゆる亀の子束子などが普及したことで、ほとんど用いられなくなった。
     かつて萩地方では、疱瘡(痘瘡、天然痘)よけの呪いとして、「ささら三八宿」と書いた鮑の殻を、家々の門に下げていたという。萩地方に限らず、病気に関する知識に乏しかった時代の人々は、病気が得体の知れぬ疫病神のようなものによってもたらされると考えていた。そしてそれらを、自分達の住む世界に侵入させないように腐心していた。
     呪いによって病気の退散を願った人々は、飯粒や穀物の粉やヘグリ(鍋釜の底の煤)などを落とす簓に、また「ささら」という言葉そのものに、体に付着した病気を落とし去る不思議な力を信じたようである。