宅配便 11
海の山桃?−「ナツモモ」

図1 河上さんが菊ヶ浜で採集された
「ナツモモ」(中央の貝の高さ・幅1.3 cm)

図2 名前の由来になったと考えられるヤマモモの果実(左側は若い実、右側は熟した実: 最も大きい実の直径2 cm)

図3 夏の菊ヶ浜。左に指月山、右に萩商港、
そして中央のすぐ沖合に防波堤が見えます。

 

 

先日、河上勲さん(萩市在住)から、去年の冬に萩市菊ヶ浜で採れた貝を見せていただきました。その中に「ナツモモ」という名前の、オレンジ色のきれいな巻貝がありました。今回は「夏」にちなみ、この「ナツモモ」という貝を紹介します。

1■「ナツモモ」−その名前の由来

 「 ナツモモ(夏桃)」とはもともと植物の名前です。漢字では「楊梅」とも書き、それは中国語ではヤマモモ(山桃)のことだそうです。ヤマモモは萩でも公園や庭に植えられることの多い樹木で、初夏(6月ごろ)に直径1〜2 cmの丸い実をたくさんつけます。その実は表面がツブツブで(図2)、この貝の特徴によく似ています。それでこの貝は「ナツモモ」と名づけられたものと考えられます 1)。

2■「ナツモモ」はどこにすんでいた?

 この貝「ナツモモ」は太平洋の西部に広く分布し、日本では房総半島より南の太平洋側と、能登半島より南の日本海側に見られます。水深20mまでの岩場や石の間などにすみ 2)、藻類をけずりとって食べます。
 さて、 河上さんは昨年11月から4ヶ月間、菊ヶ浜の東側(浜崎の萩商港寄り)で「ナツモモ」の貝殻を44個体も採集されたそうです。そこでちょっと疑問がわいてきませんか? ご存知の通り、菊ヶ浜は白い砂の遠浅の砂浜のはず。この砂浜に、どうして岩場にすんでいるはずの「ナツモモ」の貝殻がたくさん打ち上げられたのでしょう。
  左下の菊ヶ浜の風景(図3)を見てください。砂浜のすぐ沖合には防波堤がありますね。隣の萩商港にも同じような防波堤があります。これらの防波堤には海藻がたくさん生え、また、石の間は多くの魚や貝のすみかとなっています。「ナツモモ」が暮らすにもぴったりの場所です。
  おそらく、菊ヶ浜や萩商港の防波堤にすんでいた「ナツモモ」が死に、潮の流れや波によって浜に打ち上げられたものと思われます。
 この夏、菊ヶ浜へ海水浴に行かれる方、防波堤で「ナツモモ」の生きた貝を探してみませんか。そのときは、防波堤が海藻で滑りやすかったり、フジツボなど角の鋭い生物がたくさんついていて手足にけがをすることがありますので、十分気をつけてください。

3■おわりに

 菊ヶ浜で採れた「ナツモモ」の標本を貸していただき、また、さまざまな情報をくださった河上勲さんに深くお礼申し上げます。

(平成16年7月30日作成/平成16年8月13日更新)

  参照文献
1) 岡本正豊・奥谷喬司, 1997: 貝の和名. 会報「みたまき」特別号. xiii + 95 pp. 相模貝類同好会, 横須賀.
2) Higo, S., P. Callomon & Y. Goto, 1999: Catalogue and Bibliography of the Marine Shell-bearing Mollusca of Japan. 749 pp. Elle Scientific Publications, Yao