深海のすさまじいドラマを秘めた
クロアンコウの標本
業者さんがこの展示のために寄贈してくださった長さ13cmほどのクロアンコウ(チョウチンアンコウのなかま)。・・・それは、タダの黒いアンコウではなかったのです。
はじめ、それはヒレも口も・・・どこがどうなっているのか分からないようなズレた格好で冷凍されていました。そこである日、姿をキチッと整えてホルマリン漬け標本にしなければと思って解凍したところ・・・ どうも、お腹(おなか)のようすがおかしい――(私のお腹ではなくて、このクロアンコウのお腹が・・・)
チョウチンアンコウのなかまは体が丸っこいものだけど、それにしてもこれはふくらみすぎ。
そこで私は、クロアンコウのお腹を手でさわって「触診(しょくしん)」したところ・・・お腹の中に、何かがいる!!!
しかも1、2、3、・・・ん?4匹も、何かがお腹に入っている! 手の感触で、その4匹はどれも長さ8cmの魚(ハダカイワシのなかま)と判明!
さらにおそろしいことに、その4匹のうち1匹の尾が、クロアンコウの口からはみ出していた!!
クロアンコウなどチョウチンアンコウのなかまは、頭の釣りざお(「イリシウム」)を光らせて魚をおびきよせ、パクッと飲みこむ・・・この4匹の魚たち、クロアンコウに次々とおびきよせられ、あれよあれよと飲みこまれてしまったらしい・・・。
そのまま、小魚たちの無念さとクロアンコウの満足さが同居した戦慄の標本。生きるか死ぬかのキビシイ深海のオキテ・・・この標本をじっくり見て、実感してください。
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■クロアンコウMelanocetus murrayi
≪ 脊索動物門 硬骨魚綱 アンコウ目 クロアンコウ科 ≫
標本の採集地: 不明 標本のサイズ: 全長13cm
分布: 太平洋、インド洋、大西洋の水深1000〜5000mの中層 |
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