■ 清水さんからの貴重な映像
 郷土博物館は去る5月25日、山口市在住の清水茂美さんから深海魚・フリソデウオの貴重な水中映像をご寄贈いただきました(写真1〜3)。この映像は、清水さんが山口市のダイビングショップ・シーアゲインさん主催のダイビング参加中に撮影されたものです。撮影日は5月15日、撮影場所は長門市青海島船越の水深8〜10mで、フリソデウオの撮影時間は約2分となっています。
■ フリソデウオとは?
 フリソデウオはアカマンボウ目フリソデウオ科の魚で、最大で全長約1 mになります。太平洋と大西洋の熱帯海域の水深200mより深い中層にすみ、日本では釧路沖〜高知県沖の太平洋側と山口県の日本海側から記録されています1)
 この魚は成長する過程で体の形が大きく変わります。体長10〜20 cm程度の幼魚は体に斑点があり、鰭(ひれ)が長くのび、まさに「振袖魚」の名にふさわしい姿をしています(写真4)。しかし、成長するにつれて鰭は短くなり斑点も消え、やがて銀色のシンプルな姿の成魚になります。今回清水さんが撮影されたのは50〜60 cmの成魚でした(写真1〜3)。
 フリソデウオは全国各地でまれに幼魚・成魚ともに定置網にかかったり海岸に漂着したことがあるほか、浅い所に上がってきた幼魚が偶然ダイバーに水中撮影されたことが何度かありました。しかし、人が海中で成魚の生きている場面に遭遇し、しかもそれを動画で撮影したのは、現時点で当館が把握している限り、全国でも他に例のないことです。
■ 映像資料の今後の活用
 フリソデウオ科魚類は、背鰭(せびれ)を動かしつつ、斜めに立った状態で泳ぐといわれていますが、今回の映像はその動きをよく捉えています。1990年に兵庫県日本海側でリュウグウノツカイ(アカマンボウ目リュウグウノツカイ科)の水中映像が撮影されましたが、今回の映像も数少ないアカマンボウ目魚類の生態映像の一つとして、生態学的研究に活用できると思われます。また、より多くの人々に萩を含む北長門の海の生物たちの神秘を実感していただくため、当館の教育普及や展示の場においても利用していきたいと考えています。
 なお、萩では昭和16年(1941)にフリソデウオの体長20 cmの幼魚が採集され、当時の萩の博物学研究家・田中市郎氏によって記録されています2)。本年11月に開館する萩博物館ではこの幼魚の標本の複製を常設展示する予定ですので、成魚の映像と見比べていただければと思います。
■ おわりに
 萩市内・外にかかわらず、フリソデウオ科・アカナマダ科・リュウグウノツカイ科魚類の水中映像を撮影された方、おられましたら是非とも郷土博物館(担当・堀)にご連絡くださると幸いです。
 最後に、このたび貴重な映像を快くご寄贈いただいた清水茂美さんと、さまざまな関連情報をご提供くださったダイビングショップ「シーアゲイン」の笹川勉さん・小滝美紀さんに厚くお礼申し上げます。


■ 参照文献
1) 林 公義, 2000: フリソデウオ科. In: 中坊徹次(編) 日本産魚類検索 全種の同定 第2版. pp. 404-406, 1492. 東海大学出版会, 東京.
2) 田中市郎, 1950: 待望の珍魚(龍宮の使)の完全なもの始めて入手. In: 山本勉弥(編) 珍魚の誉, pp. 10〜11. 萩文化協会, 萩.
深海魚「フリソデウオ」の水中映像(2004年6月2日記者発表)
↑上から、写真1、2、3
↑写真4