今までに日本海から文献として記録されたことがなかったケアシガニが、7月2日に萩市三見の漁船によって須佐町高山沖で漁獲されました。
■ 漁獲から同定までの経緯
7月2日、萩市三見在住の中村芳正(なかむら ほうせい)氏から、珍しいカニが採れたので三見小学校で飼育しているとの連絡が郷土博物館に入りました。後日、学芸係・堀が三見小学校を訪問してカニの形態を調査したところ、クモガニ科のケアシガニであることが判明しました(写真1)。
カニの大きさ: 甲長6.2 cm
漁獲日: 平成16年7月2日
漁獲者: 山口はぎ漁協三見支所所属 祝漁丸(中村和人 船長)
漁獲地: 須佐町高山沖 水深80〜100m 沖建網にて漁獲
■ ケアシガニが須佐沖で漁獲された意義について
ケアシガニは東京湾〜土佐湾、天草灘、台湾、インド沿岸に分布し、水深10〜146mの泥・小石・岩礁などからなる海底にすむことが知られていました(文献1)。大きいものは甲長約10cmに達します。
日本海のエビ・カニ類の出現記録を把握しておられる京都府水産振興事業団・本尾 洋(もとお ひろし)博士に連絡をとったところ、このカニは文献上では今までに日本海から記録されたことのない種類であることが分かりました。
本来であれば主に黒潮の影響下の海域や熱帯海域にすむケアシガニが、幼生の頃に対馬暖流によって須佐近海に運ばれて定着し、ここで成長したものと考えられます。近年、山口県日本海沿岸は対馬暖流の影響が強まり、海水温が高くなっています。そのためか、萩近海では昨年12月のツマムラサキメダカラ(巻貝の一種)、本年4月のソウシイザリウオ(魚の一種)と、日本海から過去に記録されたことのなかった生物や目撃例がほとんどなかった生物が続けて出現しており、今回のケアシガニはその3種類目の重要な実物資料となります。当館では、今後もこうした生物の出現に注目し、萩近海の生物の分布や環境の変化に迫りたいと考えています。
■ 標本の今後の活用について
今回漁獲されたケアシガニは、7月2〜9日にかけて中村芳正氏と三見小学校教師の手によって三見小学校内の小型水槽で飼育され、珍しいカニを小学校児童や中学校生徒に見てもらう機会が設けられました。
その後、このカニは当館が寄贈を受け、現在、館内で飼育しつつ細部の計測や撮影などをおこなっています。今後、そのデータを甲殻類の分類学・生物地理学的研究に広く活用していきたいと思います。
■ おわりに
ケアシガニが漁獲されたことを博物館にご連絡くださり、また、快くご寄贈くださった中村芳正さんと中村和人さんに深謝いたします。また、三見小学校の先生方と児童の皆さんには、このカニの飼育や観察にご協力いただきましたことを厚くお礼いたします。
最後に、日本海におけるケアシガニの文献記録についてご教示いただいた京都府水産振興事業団・栽培漁業センターの本尾洋博士に、深くお礼申し上げます。
三見の漁船が日本海では珍しいケアシガニを漁獲
(2004年6月2日記者発表)