全国的に採集例が少ないことから「稀種(きしゅ)」とされている深海魚のユキフリソデウオとアカナマダが、このたび萩市越ヶ浜の大敷網にかかり、萩市郷土博物館に寄贈されました。
■ 漁獲から寄贈までの経緯
これらの魚は、山口はぎ漁協の越ヶ浜大敷部 [山下光(やましたあきら)部長、井町登(いまちのぼる)船長]の大敷網(越ヶ浜の沖の水深35mに設置)にかかったものです。ユキフリソデウオは6月11日に、アカナマダが12日にかかり、組合の方によってそれぞれ冷蔵・冷凍されました。その後、萩市郷土博物館が寄贈を受け、学芸係・堀が種を同定し博物館資料として保管しました。
■ ユキフリソデウオ (写真1)
ユキフリソデウオはアカマンボウ目フリソデウオ科の魚で、先日映像が公表されたフリソデウオに近い仲間です。太平洋と大西洋の暖海域の中深層(下記参照)にすみ、日本では東京湾口〜大阪湾、小笠原諸島近海、秋田県沖〜山口県沖から知られています1)。大きくなると全長1
mに達しますが、今回のものは全長39.7 cmの若魚で、背鰭(せびれ)の前の方にある長い軟条(なんじょう)や扇のような形をした尾鰭(おびれ)がほとんど残っている非常に状態のよい個体です。井町さんは、今回の魚を水揚げする時、泳いでいる姿を見たそうですが、先日公表されたフリソデウオとは違い、斜めに立って泳がず、水平に泳いだとのことです。この仲間の生態はまだよく分かっていないので、井町さんの証言は貴重です。
萩近海では、ユキフリソデウオは昭和12年7月に見島沖と越ヶ浜で漁獲されたことが故・田中市郎氏によって記録されている3)ほか、近隣の海域でもごくまれに漁獲されたことがあったようです。
■ アカナマダ(写真2)
アカナマダはアカマンボウ目アカナマダ科に属し、太平洋と大西洋の暖海域の中深層にすみます。日本では相模湾〜鹿児島県沖、高知県沖、山口県沖から報告されています1)。最大で全長2
mに達しますが、今回寄贈されたものは101.5 cmの中型のもので、鰭(ひれ)と右側面に欠損がありました。アカナマダのシンボルともいえる、頭の上に鶏冠(とさか)のように伸びる背鰭の一部は、残念ながら欠落していました。
萩近海では、故・田中市郎氏が昭和17年以前に見島沖で漁獲されたことを記録しているだけで2)、今回が山口県近海で2度目となります。
なお、当館は上記の田中市郎氏の標本(全長58.5 cm)の剥製も所蔵しています。その剥製には頭部の鶏冠状の鰭があり、このホームページの「お初にお目にかかります」コーナーで紹介していますのでご覧ください。
■ 近ごろ深海魚の発見が相次いでいることについて
深海とは、一般的には水深200 mより深い海をいい、それはさらに「中深層」(水深200〜800 m)、「漸深層」(800〜3000 m)、「深海層」(3000〜6000
m)、「超深海層」(6000 m〜)に区分されます。このたび漁獲された魚類はもともと中深層にすむ魚です。中深層は、光が海面の100分の1しか届かない、夕暮れぐらいの暗さの世界といわれています。彼らの目が大きく発達しているのは、そうした環境で生きていくためのものと考えられます。
先日映像を公表した長門市青海島のフリソデウオを含め、近ごろ、このような中深層にすむ魚が萩や長門の浅い海で相次いで見つかっています。今回のユキフリソデウオ・アカナマダが採れた後にも、6月16日に山口はぎ漁協・玉江浦支所[福永護(ふくながまもる)理事]の定置網(水深20〜25
m)に、同じアカマンボウ目で稀種とされているテンガイハタ(全長96.0 cm)が漁獲され、郷土博物館に寄贈されています(後日このホームページの「海からの宅配便」コーナーで詳しく紹介の予定)。なぜ、こうした魚がこの時期にここの浅い所に次々と出現しているのかについては、実例が少ない現時点ではまだ不明です。
■ 標本の今後について
このたび寄贈を受けた標本は分類学・生態学の研究資料として利用する予定です。また、詳細は未定ではありますが、何らかの形で展示公開する機会をもうけることも検討中です。
■ おわりに
ユキフリソデウオとアカナマダをご寄贈くださった山口はぎ漁協・越ヶ浜大敷部の山下光部長と井町登船長、および大敷部の皆様に深くお礼申し上げます。また、さまざまな面で便宜を図っていただいた末武晃さん(萩市在住)に厚くお礼申し上げます。
越ヶ浜で漁獲された珍魚「ユキフリソデウオ」と「アカナマダ」
(2004年6月16日記者発表)