【第4回】 歴史的景観保存地区



     文化財に指定された旧湯川家屋敷は、1994年度に、家屋と屋敷地の整備が行われました。建物については、以前の姿になるべく忠実に、傷みの激しい部材を換えたり補強したりするものでした。
     これによって、特徴のある屋敷が永く保存されることになりました。それは同時に、永い年月をかけて培われ、そして親しまれてきた、特徴のある藍場川の景観を保存することにもなったのです。
     文化財というと、建造物や絵画・彫刻・工芸品・文書などといった物をイメージされる方が多いと思います。これら具体的に形の有る物以外にも、実は、建造物を取り巻く景観なども、文化的、歴史的に価値の有る物として認められています。
     萩市では、1972年に、「歴史的景観保存地区保存条例」が制定されました。そして、藍場川のすべての水面と、川の最も上流から500メートルの地点までの、川の右岸から10メートルの範囲までとが、「歴史的景観保存地区」に指定されました。
     これにより、藍場川という構築物だけでなく、洗い物や水汲みをしたり川舟を着けたりするハトバ、川舟の通航のために高く架けられた石橋、川の水を利用することを前提に建てられた家屋等々と、それらによって形作られた景観とが、一組で文化財と考えられ、保存されていくことになったのです。この条例の制定は、全国的にみても、最も早い時期のものでした。
 かつて藍場川沿いの家々では、家の裏手などに、ダブと呼ばれる土を掘っただけの池を設けていたそうです。現在の汚水(生活雑排水)浄化槽にあたる物で、川の水を汚さない工夫のひとつでした。藍場川の清掃や補修も、昔から定期的に行われてきました。藍場川の維持に心を砕いた周辺の人々の、永い努力と理解がなければ、「歴史的景観保存地区」の指定はなかったと思われます。
 ちなみに萩市では、藍場川周辺の外に、堀内地区、南明寺境内及び参道、東光寺及び吉田松陰誕生地付近、今魚店地域、大照院付近が、歴史的景観保存地区に指定されています。